「北欧サウンズ・フロム・ジャパン。次々に台頭する”彼の地”への返答」
どこかヒンヤリとした触感、なのにしっかり掴んでみると、その中にたぎる 熱い意思を感じ取ることができる電子音楽。まるで子供のように音と無邪気に 戯れつつも、どこか知性を感じさせるサウンドメイクで、聴く者の心の中に 入り込む・・・。それが、oscillatorの『popularity』。もちろん、そんな 音楽はここ日本でも何十年も前からあったけれど、北欧の深き針葉樹林の 向こうから届けられた彼の地の音と、日本の小さなスタジオで膝をつき合わせて 作られた彼らの音が、はっきりと共振しているこのシンクロニシティ。近い匂い を感じるのは、アイスランドのmum。電子音ベースでありながらどこか幻想的な 空気を漂わせているoscillatorの音楽が、日差しの心地良いカフェやちょいと 小洒落た女の子のミニコンポのスピーカーを静かに震わせたのも、記憶に新しい。 ただ、彼らはいわゆる北欧エレクトロニカへの反応などではなく、自身の音楽を 煮詰めた結果、偶然近い触感を持つようになったのが事実のよう。発信器を意味 するバンド名らしく、やけに太いサイン波を低域に配置しつつも、バイオリンや フルート等の生楽器が軽妙に絡み合うことで、ある種寓話的な世界観が展開されて いく。若干メロディの弱さを感じるものの、それがかえって耳当たりの良さに なっている。 このoscillator以外にも、同様の手触りを持つアーティストが多数。テニスコーツ の植野、さやとDJクロックから成るcacoyは、床から数センチ浮いたかのような 奇妙な音を展開している。またanonymousは、室内楽の空気をどこまでポップ・ スタイルに変換できるかということを真摯に実験し続けるグループ。確実な 音楽理論に準拠しつつも、逸脱と構築を楽曲の中で絶えず繰り返していく。 そして、竹村延和のChildiscからの諸作品でも知られる西山豊乃の別ユニット Gutevolkや今やアート・シーンでも話題を集める高木正勝、ソロでは次々と 実験的な作品をリリースしつつライブでは弦や女性ヴォーカルを巧みに引用する 半野善弘、今年ドイツの名門Kalaole Kalkからリリースするトウヤマタケオ・・・・・・。 ドリーミーで春の日差しのようであり、空気のようにたゆたいながら、実は ミュージシャンの演奏する笑い顔が見え隠れする音楽。人肌の音とはこのような ものナリ。 文/小田晶房 (map)
(oscillator “popularity“)SMART [2003/3/31号]