「エレクトロニカをベースにしながら、とてもメロディアスであり、 有機的な音の繋がりを感じさせるプロジェクト、オシレータ。この独自の世界はどこから生まれてくるのか?」
エレクトロニカ的な実験性の高い電子音に、バイオリンやフルートなどの 生楽器によるふくよかな音色が重なり、さらには女性ボーカルのハイトーン・ ボイスが美しいメロディを奏でる。4人組ユニットoscillatorの1stアルバム 『popularity』はそんな作品である。北欧エレクトロニカ系やアルゼンチン 音響系などとも呼応する音といえるだろう。 oscillatorの結成は96年で、当初はまだロック色が濃かったそうなのだが、 現在の中心人物である田中誠が加入した98年ころから、音楽性が変わって いった。彼には、「ポップというフォーマットの中で、決まりきったポップ の法則をなぞるのではなくて、それらをうまくずらして、独自の音を作って いきたい。」という明確な方向性があった。00年~02年に録音した音源の 集大成と言える『popularity』には、その言葉どおりの音が詰まっている。 電子音やノイズの使い方で現代音楽的な手法もあり、かなりアヴァンギャルド に感じられたりもするのだが、ボーカルとメロディは極めてポピュラリティ が高く、総体的には聴きやすい音に仕上がっている。 「自分だけの自己満足的なものになってしまってはいけない、という意識は あって、じゃあ人に伝えるときに何がいちばん伝えやすいかと考えたときに、 やっぱりメロディがある、人が歌っている、ということなんです。でも、 ポップだけをやりたいんであれば、もっとわかりやすいスタイルになると思う んですけど、それだけではなくて、自分の中でこれも試したい、こういう形 で歌とうまく組み合わせたい、という意識があるので、それをなんとか破綻 しない程度に、ひとつの箱に収めて仕上げたということですね」 つまり、ポップとアヴァンギャルドの感覚が絶妙なのだ。さらに言えば、その 音像には独特の浮遊感があり、聴き手を寓話的な世界へと誘うような幻想性を もっているところも秀逸だ。すでに独自の世界観を確立している音といえるが、 田中は「ある完全な形というのは固まってしまう状況だと思うんですよ。 それはイヤで、常に未完成な危うさというのが好きなんです。そんな音楽を 作り続けていければおもしろいと思ってます。」と言う。今後、どう変わって いくのかが楽しみなユニットである。 (文/ 小山守)
(oscillator “popularity”) Gb [2003年3月号]