白いマーガレット

数週間まえに、すごく久しぶりに花を買いたくなって、

新宿のわたしのすきな花屋で、

白いマーガレットと名前は知らない小さな白い花を買った。

 

家に持ち帰ると、あまりに可愛らしくてそれぞれをお気に入りの花瓶に挿した。

白いマーガレットが特に美しかったので、

朝と夜に「あなたたちはほんとうに綺麗だね。」と、話しかけた。

 

まだ寒い時期だったからかもしれないが、

白いマーガレットはその日からほぼ買ってっきた日の新鮮さのまま、

4週間くらいは咲きつづけた。

わたしが今まで買った切り花のなかでいちばん長く咲いていた。

 

そしてほんとうにすこしずつ朽ちていった。

 

なぜか昔助からない病気で入院していた父親が、

「すこしずつ眺めが良い部屋に移るんだよ。」と言っていたのを想いだした。

実際にそうだった。

4人部屋から2人部屋へ、最後はとても眺めの良い1人部屋だった。

 

意識が遠のいてゆくのと引き換えに、

眺めの良い部屋が用意されていた。

 

わたしがこの晴れた朝にいま話しかけているこの声はもう、

この花にはぼんやりとしか聴こえない。

 

でも、なんとなくは聴こえている。

すこしの力でいきているから。

 

その数日後にその花は朽ち果てた。

まるで倒れるようにそっと。

 

だけど、そのかたちは朽ち果ててもなお「綺麗」だった。

 

 

 

 

 

 

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